対談・インタビュー
ブラッドリコール制作秘話【前編】
BLOOD RECALL誕生秘話
オオタ
:BLOOD RECALLをつくろうと思ったのは2年前(2021年秋)ぐらいのZUMEさんがフリーランスになるってお話された時期でしたよね?
ZUME
:そうですね。
オオタ
:当時からキャラクターゲームデザイナーの皆さんが本当に凄い方々だと思っていて、その中でもZUMEさんは界隈のど真ん中を行かれる方だなと思っていました。そんなZUMEさんがフリーランスになってアナログゲームをもっと盛り上げていきたい!業界のために尽力したい!ってお話をされていたので、それはもう応援しなきゃだめだな…!って思ったところがBLOOD RECALLの始まりだったと思います。
ZUME
:でもBLOOD RECALLって企画書を見た時にもうなんか、オオタさんの企画書を見た時点で、凄い分かりやすかったんですよね。
受けたダメージをコストにしていく対戦カードゲームって聞いて、ああ、いいですね。これはむしろ、いいものが作れるからやろうって、企画書の時点でよかったから決心がついた記憶があります、オオタさんありきの出発でした。
オオタ
:いやいや、とんでもない。ゲームシステムについて自分は東方VISION※1という作品を昔、遊んでいまして、そのシステムが大好きだったのでカードゲームを作るならリスペクトして制作にあたりたいなと思っていたのでそこがよかったのかもしれません。
※1東方Projectの二次創作となる同人TCG、マジック:ザ・ギャザリングやデュエル・マスターズに類似したマナシステムで進行する二人対戦カードゲーム。GRAZE(グレイズ)と呼ばれるダメージを受けたプレイヤーがマナを得るシステムなど同人TCGとして挑戦的なデザインを盛り込んだ名作。余談として幻想遊戯団は寮生活時代、副代表の部屋に入り浸りこの作品を遊んで週末の多くを過ごした。
ZUME
:ゲームデザインもそうですが、クトゥルフ神話をテーマにしたフレーバーやストーリーも当時、結構固まっていませんでしたか?
オオタ
:そうですね、僕のストーリーの作り方が1本書いてて、嫌になったら次の作品のストーリーを書くという趣味を兼ねたスタンスなのでペンデュラム・ドールズを書いている時にはBLOOD RECALLの草案はありました。今もBLOOD RECALLを書きながら次回作の草案を温めており、なるべく自分の書き物ストックは減らさないように心がけています。
BLOOD RECALLが実現した切っ掛けは、手遊びで書いていたBLOOD RECALLの草案が、ZUMEさんがフリーランスになりたいってお話してたタイミングに運よく合ったんだと思っています。
BLOOD RECALL企画、最初の打ち合わせについて
ZUME
:ちょっと脱線になるかもしれないのですが、幻想遊戯団のペンデュラム・ドールズを遊ばせて貰って「なるほど…!」と、じゃあそのシステムがしっかりしている分、BLOOD RECALLは【何をやらせたいか】をしっかり表現しようと(最初の)ディレクションでめちゃくちゃ共有したかと思います。
オオタ
:ありがとうございます…!そこが我々がまったく分かっていなかった所で、【遊ぶけれどカードゲームってなんだ?】って常に頭の中にありました。
ZUME
:ディスコードにあるBLOOD RECALLチャンネル※2にいくとこう滅茶苦茶、言語化しようとした跡が残ってますよね(笑)当時、最初の話を聞いて【自傷をして勝つ体験】が滅茶苦茶面白そうだったので、『リスクリターンを取っていく』『ライフ回復をどう考えるか?』『とりあえずダメージを受けておけって考えをどうするか?』などを中心に話して企画の骨組みを作り始めました。
※2☆根幹の「ダメージがマナになる」ゲーム体験は面白いので、そこを重点的にするゲーム設計を行う。
・テーマでもある自傷から連想する「ギリギリで」「勝つ体験」をさせる。
・カード効果をシンプルにする
・紫の役割の簡略化
・色の役割を超越するカードを減らす
・ライフに対する意識
・「ライフ回復」に対して意識
・「許容値ならとりあえず受けとけ」みたいな考え方を許容するかどうか
・初動最大打点がライフの基準値になりそう(感覚)
・マーケットは各色2つずつ
・回転率と選択肢から、色の中で選択肢がある体験をさせる
スト―リー ~ システム
チーム結成の歴史
どのような考えでこのシステムを作ろうと思ったのか?
オオタ
:東方VISIONのようなダメージを受けた時に何かしら受けたプレイヤーに帰ってくるシステムを目指しました。シールドを割ると、相手が強くなる。近いイメージだとデュエルマスターズやONE PIECEカードゲームなどですね。会話が入れ替わる対戦カードゲームを作りたい。この辺りをダメージを受ける事で先手後手の移り変わりで調整しました。めちゃくちゃ良かったのは、状況によって先手後手が入れ替わっていくのは、ZUMEさんの大発明だなって。
ZUME
:ありがとうございます。先手後手ってガンナガンでも速度を決めればいいじゃんってなっても結局、じゃんけんで決まってしまうときがありますよね。それはそれでいいんだけど、「じゃんけんで勝ったから勝ちやすい」って体験はそれはそれでいいとは思うんですけど…、もっとラフに変わっていいと。このゲームは特に、先手、後手で体感が違う。
先手は押し付ける側、後手は対応する側、どっちにもうまみがあるから、けっこうラフに変えても大丈夫だなと。始めにオオタさんからの提案は先手、後手から後手、先手に変わるっていう感じでしたよね。
オオタ
:そうですね。
ZUME
:先手、後手の順番を繰り返していくっていうデザイン提案は進行を忘れがちになってしまう、ダメージを与えた側が先手になってマーケットを先に買えるようにしてしまう。後手はお金(ブラッドプール)を持っているので色々な対応が出来る。先手が後手にいかに旨みをあたえないようにするかっていう立ち回りになっていくので面白くなると思い、それがハマったのかなと思います。
オオタ
:いやー凄い、大発明だと思います。このシステムはインディーズカードゲーム業界だけでない発展をみせるんじゃないかって思いますね…!
ZUME
:システム面は二転三転しましたね…!オオタさんがライフをシールド制にしようとお話していました。
オオタ
:いまでもシールドの方が安全だと思っています…!(笑)やっぱりカードパワーが上がってくると、極端な例で申し訳ないのですが、BLOOD RECALLの第100拡張の時に1ターン目から100点でるかもしれないんですよ!(笑)
ZUME
:はいはい!(笑)
オオタ
:そういう時にライフがシールド制だと安全なんですよね、最大ダメージを受けた時にもある程度ゲームが続行するので、ゲームデザイナーとしては安全性を取りたくなるっていう意見を話しました。
ZUME
:うん、言いたいことはめちゃくちゃわかる!……けど、これ僕がゲームのデザインとしては、作家性としては……。ゲームを作る上でよく言われるのが、【システムが先か、フレーバーが先か】なんですよ。けど最近分かってきたのは、僕はそのどちらでもなくて【ゲーム体験】なんですよね。
オオタ
:そうですね、そうですね。
ZUME
:なにが体験できるのかっていう所から逆算して、じゃあまずフレーバーやシステムだよねって考えていくのが僕の根幹にすごくあって、ガンナガンとかも実は二丁拳銃とか後からついたもので【二個デッキ使いたいな】っていう体験から始まっているんですよ。じゃあその体験からどうすればいいのか逆算をして【二丁拳銃】っていうフレーバーが生まれたんですよ。その中でBLOOD RECALLの場合は【血がめちゃくちゃ出てる感】をどうしても出したくて……、システム的な破綻がないって考えたらシールド制なんですけど、どうしても血がバシャバシャ出ている感じ、リスクリターンをしている感じを出したかったんでそこは強くオオタさんに20点制のライフで!ってお願いしました。
オオタ
:うん、うん、そうですよね。
ZUME
:それでライフのコンポーネントもどうするかギリギリまで悩んでいました。ボードゲームにあるメーター型やトークン型にするか、TCGにあるライフカードにするか、すごく悩んで、僕からの提案になっちゃったんですけど、ライフカードにしようと話しました。あれの理由として、自分のライフを削る上で計算して欲しくなかったんですよ。クレジットカードで買い物をするようなイメージを持たせたかった。僕は今月クレジットカードを使いすぎたと思って無くても使いすぎている事がよくある、そんな感じで。出血による人の致死量ってわかんないと思うんですよね。たとえば5ℓっていわれても僕は牛乳パックの本数で想像するぐらいしかできない。自分の体からそれが出た時、どうなるのかわかんない。それを【ゲーム体験】に落とし込めるといいなって思ったから20枚のカードにして、その上で十字に重ねる。ターニングポイントだけ分かる感じで、なんとなくやばい!ってのがわかるように。10枚、10枚でライフカードを重なるってしたのは、わりとその、ライフシステムが紆余曲折あるなかで一番体感にそったやつになったんじゃないかって思っています。UIの提案として個人的には一番、好きな奴ですね。
オオタ
:たしかに、削っているって感じは今が一番よく出ていますよね…!【ゲーム体験】はお話を聞いて滅茶苦茶大事だと思っていて20点制ライフゲームで良いなと思いました。仮に拡張が進んでどうしようもなくなったらシールドに等しいシステムをしょうがないからゲームに組み込めばいい、その時はあったとしていいと思うんですけど、遊んだ最初にある体験は今の形が一番いいと思っています。
ZUME
:そうですね、なんか本当に、悩んだんですけど結果的にライフコンポーネントがブラッドカードになったのは正解だったんじゃないかと思います。皆、対戦しているとライフが10を切ったあたりで自分のライフを確認し始めます、「お前!それは先に数えとけよ(笑)」ってなるんだけどそれがこのゲームで【失血死をしない体験】に凄くいいんじゃないかなって、凄い良い感じに進んだなーって思いました。
オオタ
:お話を聞いていて凄く思ったのですが、キャラクターゲームを制作する上で【ゲームデザインが先か、フレーバーが先か】ってZUMEさんに最初に聞いた時、【ゲームの感動体験が先】ってお話が僕にとって凄く大きかったです。それがBLOOD RECALLのゲームデザインの本流になっていると思います。恥ずかしい話ですが、僕はカードゲーム制作はカードゲームプレイヤーのプロみたいな人が調整に調整を重ねてデザインされた物が良いものだと信じていたんですよ。けどBLOOD RECALLを経験して知ったのは、そうじゃない方がいいかもしれない。ってことでした。それよりもZUMEさんが仰っているような【こういう感動体験をさせたい】とか【こういうゲームだから面白いよね】っていうゲームのデザインが上手い人は、多分なんですけど、カードゲームがとても上手い人っていう要素ではなくて、感動体験を作るのが上手い人なんだなと。カードゲームって数字の調整をする物なんだなって思っていたんだけど、そうじゃない。それはこのBLOOD RECALLでZUMEさんとお仕事をして滅茶苦茶、勉強させて頂きました。
ZUME
:そうですよね、面白いゲームって死ぬほどあるんですよね…。けど面白さの足し算で作ったゲームって面白いんだけどその先がない、そんな中で日本発のキャラクターゲームを作っていくって考えた時、どういう事が出来るのかって考えるとそうなったのかなって思います。
オオタ
:そうですね、ZUMEさんにゲームデザインのお話をした時は、「縦(ゲームデザイン)か、横(フレーバー)か?」って質問したつもりだったのですが奥行き(体験)だって話された時、びっくりした覚えがあります。けどよく考えると理に凄く叶っていて、体験ってプレイヤーを選ばないんですよね、プレイヤーが誰でも味わう事ができる。だから今、BLOOD RECALLを楽しかったって多くのプレイヤーに言って頂けてるのは、BLOOD RECALLの【感動体験】がしっかりしているからなんじゃないかって思います。
ZUME
:そうですね、僕たちBLOOD RECALLプロジェクトは面白かったって言って欲しいのではなく、楽しかったって言ってもらいたいんですよね!
オオタ
:そうですね!
ZUME
:これはデジタルゲームの話になってしまうんですけど、僕はワンダと巨像というゲームとソウルシリーズがすごい好きで、あれってやっぱり体験がすごいしっかりしているんですよ。ワンダと巨像だったら勝てないって思いながらでかい巨像を剣一本握りながら登って巨像にすぽって刺して倒す体験で誰でもやりたいと思うんですよね。そこに対して最低限の要素だけ詰め込んでやらせてくれる。
オオタ
:うんうん
ZUME
:ソウルシリーズは強敵にどう打ち勝つかを脳フルスロットルでやらせるじゃないですか。あれがゲーム体験で上手いのは演出で強敵っていうのをちゃんと作っているんですよね。要は敵が吠えた時にめちゃくちゃ画面が震えるとか。
オオタ
:分かります(笑)僕はフレーバーが大好きなので城の一番上に行くんだとしたら、一番上に行くまでに城の中に落ちているアイテムのフレーバーを読むんですよね。それがこのボス最強だなって思わせてくれて。
ZUME
:そうですよね(笑)そんな強い奴と戦うのかみたいなフレーバーがちょいちょいあったりして、それを拾い切った後にようやく戦いがはじまるので、こんだけ強い奴を倒せるのかと思いながら頑張って倒す体験がすごい良いんですよね。
体験が楽しかったゲームはすごい心に残り続けるなって思ってます。
オオタ
:うんうん、すごい分かります。
ZUME
:システムが面白いゲームもたくさんあると思うんですけど、すごく狭き門だと思っていて…。
コアなファンにしか面白さが伝わらないこともあると思います。それを考えた時に人の心を動かすのは感情だと思うので、感情を動かせるのは体験重視だと思います。
なので僕はシステムが先かフレーバーが先かを考えるのはそもそも違っていて、まず体験から考えないとだめだよっていうのが僕のものづくりで大事なものだと思っています。
その上でBLOO DRECALLのシステムは僕の作り方に合っていたのでお仕事受けたのもありましたし、楽しかったなと思います。
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